あさばの起点は1484年にさかのぼる。先祖の浅羽弥九郎幸忠が修善寺の曹洞宗開山に際してこの地に入り、堂を守るかたわら門前に宿坊を開いたのが始まりである。この宿がほかに代え難いものを持つのは、庭のなかだ —— 能舞台「月桂殿」。旧大聖寺藩主・前田利鬯子爵の寄贈によるもので、明治後期に七代目浅羽保右衛門が東京から移築した。四十年ほど前からは宿が「あさば藝術紀行」と題し、季節ごとに当代一流の師匠をこの舞台に招いて、能・狂言・新内・舞踊を演じてもらっている。2026年の九演目には、人間国宝は新内仲三郎、野村万作、井上八千代の三名。ほかに八代目尾上菊五郎、松本幸四郎、野村萬斎の名もある(この三名は人間国宝ではない)。3月18日から6月9日まで、いずれも夕刻17時開演。客にとってこれは「温泉に一泊する」旅ではなく、「その日、その師匠がそこにいる」旅になるということである。