「吉兆」は日本料理のひとつの神話である。創業者・湯木貞一は日本料理を世界の宝にすることを志し、その吉兆の系譜のなかで、一族の外にありながら「吉兆」の名を冠することを許されたのは、ただ「味吉兆」のみであった。味吉兆 ぶんぶ庵は、この正統の血脈を受け継ぐ。1970年に湯木貞一自らの監修によって創業し、1972年より「味吉兆」の名を継承、「日本料理を世界の宝に」という哲学を今日の食卓まで携えてきた。ここは普通の割烹ではなく、上方(関西)料理の正統が生きて息づく一派である。
空間もまた同じく行き届いている。本町のビジネス街に潜みながら、地下には数寄屋造りの日本庭園を擁する。石畳、飛石、竹垣、水の光と緑が、都心の地下によみがえる。五つの個室は最多で約24名を迎えられ、少人数から中規模まで、庭を望む個室で格式と密やかさを兼ね備えたもてなしを受けられる。料理は上方割烹の王道を行き、大阪・奈良・京都の旬の野菜を採り、四季の移ろいを一膳に映す。ミシュラン一つ星に列している。
主催者にとって、これは「クライマックス級」の美食接待の一枚である。懐石の正統のなかで少人数から中規模の大切な客を厚くもてなすとき、味吉兆が差し出すのは華美な演出ではなく、「吉兆で唯一、外姓に許された名」という血脈の正当性と、庭を望む個室の静けさと密やかさである。もてなしそのものを、ひとつの厳かな文化的表明へと高める——最も正統な上方の味で、最も真摯に遇されるべき人を迎えるために。