方広寺は1371年、後醍醐天皇の皇子・無文元選禅師の開山による、臨済宗方広寺派の大本山である。単なる地方の寺院ではなく、一つの禅宗宗派の総本山だ。浜松の奥山、60ヘクタール(東京ドーム約13個分)を超える森のなかに、登録有形文化財の建築22棟が点在し、山道の傍らには各々に表情の異なる五百羅漢の石像が並ぶ。ここは信仰と自然が共に六世紀半にわたって守り育ててきた空間である。
この企画の価値は、企業研修やリトリートへと完全にあつらえられる点にある。坐禅は注意を呼吸へと引き戻し、写経・写仏は一筆一画のなかで人をゆっくりと歩ませる。宿坊での一泊はチームをホテルから離し、寺の生活の律動に住まわせる。精進料理——名物は精進で鰻の食感を出す「精進うなぎ重」——は、食もまた修行の一部へと変える。ひと通りを終えてみれば、上辺だけの観光ではなく、高圧のチームが禅の空間で本当に「立ち止まり、整え直す」体験となる。
企画を組む者にとって、方広寺が差し出すのは今もっとも希少なもの——静けさである。誰もが休みなく走り続けるこの時代に、一団を禅宗の総本山へ導き、坐って呼吸し、一段の経を写し、精進の膳をいただき、寺に一夜を過ごさせる。この心身の再整は、いかなる豪華な旅程よりも高級客に重んじられる。ここが売るのは景勝地ではなく、「ゆっくりする」こと、そのものである。