犬島精錬所美術館は、「再生」をめぐる静かな思索の場である。犬島には二十世紀初頭、銅の精錬所が築かれたが、稼働はわずか十年ほどで、高くそびえる煙突と一面のからみ煉瓦、赤煉瓦の廃墟だけを残して閉ざされた。以来、それらはおよそ一世紀にわたり、島の上に静かに佇み続けてきた。二〇〇八年、建築家・三分一博志はこの産業遺構を、ほとんど機械の動力に頼らない美術館へと甦らせた。煙突の煙突効果と地熱を利して、自然換気と自然採光だけで「呼吸」するように機能するこの建築は、百年前の産業廃墟を、持続可能性をめぐる一つの建築宣言へと変えた。
館内の作品は柳幸典によるもので、作家・三島由紀夫を主題に据える。三島の旧邸から解体した部材と言葉を、暗がりの通路に宙づりにし、光と影、金属の反射と静寂のなかで、近代化と国家と個人という主題に観る者を対峙させる。産業遺産の重い歴史、環境建築の軽やかな知恵、そして思想と正面から向き合う芸術が、ここでは幾層もの稀有なテクストとなって重なり合う。
提案に携わる者にとって、これは「深く味わう」タイプの賓客にこそふさわしい稀少な選択肢だ。犬島へ渡海せねばならず、その手間が自ずと物見遊山の客を退ける。語られるのは産業史であり、環境思想であり、三島由紀夫である。持続可能性や日本近現代の精神史に関心を寄せる賓客に向く。自然の力で呼吸する黒い通路を抜け、廃墟と思想のあいだを歩むとき、その「廃墟が生命を取り戻す」震えは、旅程のなかで最も重く、最も味わい深い一段となるだろう。