富士屋ホテルは「一軒の老舗ホテル」ではない。近代日本のもてなしの原点である。1878年(明治11年)、山口仙之助が宮ノ下に、日本で初めて本格的なリゾートホテルを開いた——西洋人の多くがまだ旅籠にしか泊まれなかったあの時代に、この地はいち早く「和洋折衷」の姿で世界を迎え入れた。それから一世紀半、ホテルは近代史のひと続きを、そのまま建築の中に留めている。
最も稀有なのは、建築そのものが文化財であることだ。本館(明治24年)、西洋館、花御殿ほか数棟が1997年に登録有形文化財に指定された——あなたは「文化財のあるホテルの隣に泊まる」のではなく、登録文化財そのものに眠るのだ。棟ごとに異なる表情がある。唐破風、格天井、手描きの花鳥、彫刻の梁——「明治から昭和の日本が、いかに西洋を思い描き、いかに和魂を守り抜いたか」を、そのまま泊まれる空間として凝固させている。宮ノ下温泉の湯、外輪山の眺め、そしてチャップリン、ジョン・レノン、ヘレン・ケラーら歴代の名賓が遺した痕跡が、他所では決して買えない時間の厚みを織りなしている。
提案において、富士屋は完璧な「開幕」の一枚だ。歴史と建築と物語性を一度に差し出し、賓客に、足を踏み入れた最初の瞬間からこの旅の重みを悟らせる。仕えるのは、物語性と格式を重んじる文化志向の賓客——彼らにとって、呼吸する文化財に泊まること自体が、この上ない開幕の挨拶となる。