瀬戸内リトリート青凪は、一棟の建築が迎えた「第二の生」である。もとは安藤忠雄が手がけた私設美術館であったこの建物は、わずか7室のスイートだけを備えた究極の隠れ家へと生まれ変わった。同じ打ちっぱなしのコンクリート建築が、芸術を展示する場から、建築そのものに包まれて暮らす住まいへと姿を変えたのである。
松山郊外の丘に静かに佇み、瀬戸内海を見晴らす。象徴となるのは、約30メートルに及ぶインフィニティプールだ。水面は視覚のうえで遠くの海へとそのまま流れ込み、プールの縁は消え、空と海と水がひとつに溶け合う。全7室という設えは、施設全体が同時にごく少数の客だけを迎えることを意味し、その静けさは占有に近い。安藤建築ならではの光と影、コンクリートの静謐、そして丹念に切り取られた海の景色が、滞在のひとときひとときを、住むことのできる一片の芸術に変える。喧噪のロビーも、人の往来もない。あるのは建築と、海と、あなただけだ。
提案の場では、瀬戸内の物語を締めくくる理想の「幕引き」となる。直島・豊島・犬島で密度の高い芸術巡礼を経たゲストが、ここでテンポを完全にゆるめ、安藤建築のなかで静養を独り占めする。公開予約が可能でありながら、少人数の貸切滞在にも申し分なく適う——「安藤建築を一棟まるごと独占する」ことを望む富裕層は、そのためだけに足を運ぶ。建築と海がつくり出す絶対的なプライベートと静けさこそ、最上級の客が対価を惜しまない究極の贅沢である。