成巽閣は、ほとんど他に例のない身分を秘めている。日本に現存する唯一の大名正室(奥方)御殿なのだ。1863年、加賀前田家13代当主・前田斉泰が、自らの母・眞龍院のために建てたこの隠居の場。この一文は、少し立ち止まる価値がある。江戸時代の大名御殿が今日まで残ること自体が稀であり、しかも「正室の、奥方の」御殿となれば、現存するのはこの一座のみ。複製でも再建でもなく、あの世界が本当に生き延びた一片である。
中へ入れば、成巽閣で最も名高い一景に出会う。二階の「群青の間」だ。天井は、当時きわめて高価でオランダから輸入を要した群青の顔料で塗られ、紅と紫を配す。あの深い青は、武家建築においては珍しいほど大胆で——書院造の端正さと数寄屋の雅を織り合わせた、母の居所に許された一抹の華やぎである。庭園「飛鶴庭」は国指定名勝。茶室「清香軒」「清香書院」と飛鶴庭は、平時は非公開で、特定期間の特別公開のみ。この「平時は立ち入れぬ」という門こそ、その格を証すものだ。建物そのものが国指定重要文化財であり、兼六園に隣接する。
提案にとって、これは「格式」を定義しうる一枚だ。静かで、内省的で、声高にならない。行程のなかの「quiet transition」にふさわしく、歴史と建築の格を解する賓客をゆっくりと立ち止まらせ、加賀前田家の美学と権力が、いかに一座の奥方御殿という具体の空間に結実したかを読み解かせる。もし個別相談によって格式ある貸切レセプションを手配できれば、「唯一現存する大名正室御殿に正式に迎え入れられる」という重みは、いかなる新造の会場も与えられない。最上級VIPへの、静をもって制する切り札である。