東京・日比谷に、懐石を実験室として営む一人の料理人がいる。日本料理 龍吟(RyuGin)の主人・山本征治が手がけるのは、伝統懐石の複製ではなく、「進化系懐石」と呼ばれる一つの料理の言語である——彼は現代科学の方法をもって、ある古い問いを問い直す。いかにして食材を、その最良の一瞬に、もっとも真の姿で客のもとへ届けるか。旬こそ揺るがぬ礎であり、科学はその礎をより精確に立ち現すための道具にすぎない。これは伝統と技術のあいだの対話であって、いずれか一方が他方を取って代わることではない。
龍吟に座れば、窓の外は日比谷ミッドタウンから東京を見晴らす眺め、卓上には季節とともに移ろい、ミリ単位の精度で設計された料理が一皿ずつ供される。ここは旅の高潮の一夜に置くのがふさわしい——客が京都の静を見、匠の手を体験したのち、東京へ来て、この街でもっとも鋭利な一卓で「日本料理の次の一歩はどこへ向かうのか」を理解する。それが差し出すのは一度の食事ではなく、日本が伝統と革新にいかに向き合うかという、一つの完結した答えである。
龍吟は気ままな予約を受け付けない——門を開くには紹介を要する。この一層の敷居そのものが提案のなかの価値である。客をここへ導き入れられるとは、他人の持たぬ通路を握っていることを意味し、客が記憶するのは、「紹介された者だけが座れる」あの一夜なのだ。