加賀屋は、日本の旅館のひとつの模範解答です。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」において、通算で約42回、総合第1位に選ばれてきました。36年連続第1位という記録は第41回(2016年)まで続き、第42回(2017年)で途切れています——これは一度の審査の偏愛ではなく、同業者が長年にわたり認め続けてきた公認です。七尾湾の波打ち際に建つこの旅館は、「もてなし」をこれ以上ないほどの高みにまで磨き上げてきました。客が口をひらく前に、必要なものはすでに整っている。そのひとつひとつの所作の背後には、幾十年をかけて練り上げられた接客の体系があります。加賀屋が体現するのは、日本の旅館というこの手わざが到達しうる極致です。
しかし、正直に申し上げねばなりません。2024年元旦の能登半島地震は、和倉温泉に甚大な被害をもたらしました。加賀屋は損壊のため休業が続いています。2025年8月1日の公式発表によれば、既存の4棟はいずれも建て替えではなくすべて解体され、新館は「松乃碧」の跡地に建てられます。客室は約40室、2027年度末の開業を目指すとされています。つまりこれは「今すぐ予約できる」資源ではなく、復興の途上を歩む、時間軸を注視すべき名前なのです。