京都には、値段とは関わりのない一線があります。問われるのは「誰の紹介で来たか」だけです。祇園のお茶屋は今も「一見さんお断り」を守っています。馴染みの客、あるいは茶屋が信頼する仲介者の紹介がなければ、どれほどの予算でも本物の私的な座敷は取れません。これは老舗花街が今日まで受け継ぐ掟であり、この資源のなかで「お金では届かない」数少ない敷居の一つです。
敷居よりも硬いのは、時間のほうです。芸妓・舞妓の稼働は限られ、一夜に一組をお迎えするのが通例です。お客様が押さえるのは席ではなく、その晩、彼女たちが他所へ行かないという時間そのものです。懐石が静かに運ばれ、目の前で舞妓が舞い、三味線の音がお客様だけの座敷に落ち、そしてお座敷遊びへと続きます。芸妓が自ら手ほどきをし、この畳の上でしか興らない遊びです。舞台も客席もなく、芸妓・舞妓とお客様の間には盃一つ分の距離しかありません。京都のもてなし文化の、最も奥にある最も私的な一層です。
お金では届かないところに、紹介は届きます。ただし紹介には名前が要ります。